むかしのお話です。
真人の正応寺に一人の美男の小僧さんがいました。この小僧さん近所の娘さんのあこがれの的でしたが、一人の美しい娘と恋をしました。僧侶と女。このことがもし和尚の耳に入れば破門になってしまいます。
仏の道に没入すべきか、恋人と手を取って走るべきか、この若い僧は悩みに悩みましたが、ついに恐ろしい計画をめぐらせました。
「そうだ!恋人とお寺を手に入れたらどんなによいだろう。和尚を殺してしまおう。」
ある晩、小僧は娘と二人で、寝室で眠っている和尚に忍び寄り、和尚の頭に三寸釘を打ち込み、殺してしまいました。指の間を鮮血に染めた両人は、思わず顔を見合わせてホッとし、自分の部屋にひきあげて夜の明けるのを待って死体の始末をしようと相談しました。
間もなく、東の空は明るくなりました。和尚が生きていれば、毎朝の読経の時間です。彼は心の中で大恩ある和尚の冥福を祈り、思わず合掌しました。その時、本堂から死んだはずの和尚の、朗々たる読経の声が聞こえたのです。
小僧はビックリ仰天。本堂に駆けつけ、和尚の後ろに坐り、頭を床にすりつけました。そして和尚の後姿の向こうに輝いている本尊様を見上げると、御本尊の頭には三寸釘がささり、鮮血がタラタラと流れていました。御本尊が和尚の身代わりになったのです。
それから間もなくして、小僧は谷底で死んでいるのを村人に発見され、娘は遠い町で正気を失ってさまよっていたということです。
ところが、更にこの御本尊を見た者は必ず目が見えなくなってしまうということになり、あかずの扉となってしまいました。